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#034

「第4次産業革命」を見据えてソフトバンクはワトソンに注力する

IBM | NewsPicks Brand Design
2015/10/5
ソフトバンクといえば、今では通信事業者としての顔がよく知られているが、それ以前からソフトウェアや出版、インターネット事業など、時代に応じてさまざまなビジネスを展開してきた会社だ。そして今年に入って、オリジナルの人工知能(AI)を搭載したパーソナルロボット「Pepper(ペッパー)」の発売、日本IBMと「IBM Watson(ワトソン)」の日本での共同展開に向けた提携など、新たなコンピューティング分野への大きな投資を行っている。ソフトバンクは、この分野にどんな可能性を見ているのか、同社の首席エヴァンジェリスト・中山五輪男氏に話を聞いた。
IBMと提携したソフトバンクが日本で果たす役割
──ソフトバンク日本IBMとワトソンに関する戦略的提携を発表しましたが、どういった経緯があったのでしょうか。

中山:今回の提携の目的は、ワトソンの日本市場導入に関して、ソフトバンクがワトソンを運用するデータセンターを提供し、ワトソンの日本語トレーニングを行い、ワトソンを使ったビジネスの可能性を探るというものです。

現在、ソフトバンクの法人事業部門には、全国で数千人の営業担当者が集まっており、今後は彼らが積極的にワトソンを売っていきます。この営業力は日本IBMにとって、心強いはずです。

私たちは、これまでiPhoneiPadといった端末の販売や、それらを活用したソリューションの提案などの営業を通じて、日本IBMとは違ったかたちで全国の企業と関係を築いています。それをうまく生かしながら、将来はスマートデバイスとワトソンとが結びついたサービスを売っていくことを考えています。

実はかなり以前から、ソフトバンク社内でもワトソンの評価を行っていました。ワトソンは、コールセンターでの採用事例が多いですが、ソフトバンクも大きなコールセンターを全国に抱えているため、ワトソンによって少しでも効率化し、コストを下げることができないか研究していたわけです。

その積み重ねの中で、「これなら商品として売ってもいいんじゃないか」という判断が出てきて、今回の提携につながりました。

中山五輪男(なかやま・いわお)
ソフトバンク首席エヴァンジェリストとして、iPhoneiPadおよびPepperの事業推進を担当。Watson事業推進室にも所属し、全国各地で講演、執筆などを行っている
人工知能が「第4次産業革命」を引き起こす
──ソフトバンクでは人工知能を備えたパーソナルロボット、ペッパーを自ら開発し販売しています。こうした人工知能を積極的にビジネスにしようとする理由はなんですか。

IBMではワトソンを人工知能ではなく「コグニティブ・コンピューティング=認知・認識的なコンピューティング」と位置付けています。これは、自然言語で投げかけられた複雑な質問に答えられるだけでなく、認識、教育、そして経験によって自ら学習するシステムのことです。

この新しいコンピューティング技術にソフトバンクがフォーカスするのは、人工知能によって産業全体が大きく変わろうとしているからです。たとえば製造業の歴史においては、蒸気機関、電力、コンピュータによって第1〜3次までの大きな革命が引き起こされました。そして現在、第4次産業革命人工知能がけん引するといわれています。

ソフトバンクのペッパーは独自につくったクラウドAIにつながっています。お客様の感情を認識したり、ペッパー自身が感情を持っているかのように振る舞ったりすることができる、人とコミュニケーションすることに優れたロボットです。そこに強力なワトソンと連携することができたら、ペッパーが活躍できる場面はさらに広がります。

ペッパーはネットワークにつながっており、それ自身がひとつのスマートデバイスのようなものです。たとえばグーグルやフェイスブックマイクロソフトといったほかの企業が開発した人工知能とつながることもできるでしょう。そうすることで、ペッパーはいろんな分野に強いロボットになれる可能性を秘めています。

一方でワトソンは、学習を重ねることでさまざまな分野に特化させることができます。ひとつ例を挙げると、IBMではさまざまなレシピを学習させた「Chef Watson(シェフ・ワトソン)」を開発しています。

これは、材料や季節などの利用者からのリクエストに応えて、オリジナル料理のレシピを提案してくれるものです。こんなふうに、さまざまな分野で活躍するスペシャリスト的なワトソンが今後続々と登場するでしょう。

──確かに、ペッパーはすでにさまざまな分野で実験的な導入が始まっています。

はい。たとえば小売りの現場ではすでに導入が始まっています。ネスレではコーヒーマシン「ネスカフェ」を販売する家電量販店の売り場に、ペッパーを「販売員」として派遣し、接客させています。

人間が接客すると「押し売りされるのでは」と敬遠してしまうお客様がいますが、ロボットであれば気兼ねなくお客様のほうから近寄って来てくれる。また、製品情報をデータベースに入れておけば、お客様の質問に対して柔軟に回答することもできます。

大手家電量販店のヤマダ電機は、2016年の春からペッパーを売り場に配置し、接客をさせる計画を明らかにしています。この計画では、ヤマダ電機日本IBMソフトバンクの3社協同で、ペッパーのバックエンドにワトソンを接続し、ヤマダ電機が持っている接客ノウハウやマニュアルを学習させます。
 

ワトソンの実用化には「鍛える」プロセスが必要
──おもちゃのような「ロボット店員」や、情報検索用の店頭端末は以前からありますが、それらとペッパーの違いはなんでしょうか。

単なる情報検索用の端末ではなく、ペッパーから積極的にお客様に話しかけていくので、まさにSFの世界のロボット店員と同じです。新製品が発売されてもすぐに情報を学習できるし、店員を増やしたいときもペッパーを増やすだけで新たに教育する必要もない。長期的に見たら人間の社員よりも優秀で、コストが低くなるかもしれません。

珍しいところでは、この7月からみずほ銀行にペッパーが入行しました。コンシェルジュとして店頭でお客様のお相手をしています。面白いのが、お客様が窓口の順番を待つ間、待ち時間の退屈を緩和させるための遊びとして「おみくじ」があるんです。

これで大吉が出ると「今日は運が良いから宝くじを買うと良いですよ」という営業トークまでする。これが結構、受けているそうです(笑)。実際に、ペッパーが配属された支店の行員にアンケートをとったら、店内の雰囲気が良くなったという回答もありました。

ペッパーは販売員だけでなく、人に何かを教えることもできます。すでに子ども向けの語学教材アプリがあり、ペッパーが飛行機のまねをして「これは英語でなんて言う?」という質問を投げかけるといった、ロボットならではの語学学習が可能になっています。

──実際にワトソンを優秀な販売員や教師、オペレーターなどに育てるには、どういった作業が必要なんでしょうか。

ビジネスの現場でワトソンを実用とするためには、その分野について相当なデータ量が必要です。ワトソンは「コーパス」という知識データベースを必要とし、そこに知識を投入する作業が必須になります。たとえば小売店の店員にするなら、取り扱う製品のカタログや操作マニュアル、コールセンターなら想定問答集といったデータです。

さらに「鍛える」というプロセスもあります。ある程度、データが蓄積したら、実際のお客様を想定した質問をして、その回答が間違っていたら修正するという段階が必要です。だから、ワトソンは導入してすぐに使えるわけではありません。実用レベルに達するまでには、だいたい数カ月から半年、場合によっては1年くらいかかります。

ただ、すべてを人間が教えなければいけないわけではありません。ある程度のところまで教育を施せば、そこから先はワトソンが自ら推論して答えを考えます。推論エンジンはどんどん改良されてきているので、今後は人間が最初にトレーニングをする期間は短縮されていくはずです。