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#042

産業トレンドが可視化できる「集合的知性」はどう生まれるのか

IBM | NewsPicks Brand Design
2016/1/30
人材と製造事業者とのマッチングを実現する、人工知能をベースにしたフォーラムエンジニアリング社のプラットフォーム『Insight Matching』は、産業界のトレンドや構造をさまざまなテキストから可視化できる可能性を秘めている。それによって、人や企業、そして社会にどのような影響を与えるのか。同社取締役CIOの竹内政博氏に聞いた。
率先してビジネスモデルを破壊する革新が必要だった
──前回、トレンドの技術もいずれコモディティ化するというお話がありましたが、人工知能もおそらく近い将来はそうなる。そのとき、Insight Matchingの優位性をどのように担保するのでしょうか。

竹内:ウーバライゼーションという言葉がありますが、Uberはテクノロジーによって既存のタクシー業界に大打撃を与えました。われわれが社内で議論していくなかで、ほかの業界からテクノロジーによる破壊者がやってくる前に、自分たちでそれをやってしまうべきだ、という話になりました。

具体的には、人材派遣業は「仲介者」の存在をなくさないと、業界における本当の意味での破壊的イノベーションにはならない、という結論に至ったのです。

人材派遣は、仲介者がどんなレコメンドをしても、最後は求職者と求人企業の双方の意思が合わないと成立しません。本質を突けば、仲介者は必須の存在ではない。だから、われわれは自分自身の存在を否定するところから、ビジネスプロセスの設計や具現化できそうなテクノロジーの探索を始めました。

日本における技術者派遣の市場規模は60万人ほどです。全体の総労働人口が6千万人ほどですから、約1%とかなり小さい。そうした小さい領域に特化することで、コグニティブコンピューティングという新しい技術を使いこなすことができれば、ニッチな分野であるからこそ競争力に転換できると思っています。

したがって、コモディティ化するまではだいぶ時間がかかると予想しているし、先行してプラットフォームとなることで、この分野で寡占的な地位を取れるというビジネスプランを持っています。

──自らのビジネスモデルを破壊するということに対して、社内から反対の声はありませんでしたか。

まったくありませんでした。従来の人材サービス業は労働集約型ビジネスのため、トップラインを上げようとすると営業人数を増加する必要が生じます。また、マッチングの成否は仲介者の努力よりも、求職者と求人企業の意向に左右されてしまうことが多い。そうなると、営業担当にとっては顧客接点や営業機会の最大化がテーマになり、マッチングではなく総当たりになってしまいます。

そこで人工知能を活用することで、論拠、根拠に基づく適切なマッチング結果をランキングで返してくれるようになれば、営業担当は回数を追うのではなく、業務の効率化や高度化、顧客価値を高める活動といった、もっとクリエイティブな仕事へと転換できます。そうしたロードマップも明らかにしているので、社内からの反発はありません。

竹内政博(たけうち・まさひろ)フォーラムエンジニアリング取締役CIO。学生時代に人間機械論、推論分析などを研究。20代後半から人材サービス業界に入り、数々の要職を歴任。2012年より同社CIOに就任、ICT革新を推進する。
人間の役割は意思決定にシフトしていく
──そうやって、現在は人間が行っているビジネスプロセスが自動化されていくと、人間の役割はどのようなものになるのでしょうか。

Insight Matchingの運用初期の段階では、予測分析モデルの結果が本当に正しいかどうかを人間が評価しなければなりません。予測が正しいか、正しくないかを評価し、教師データをブラッシュアップさせる。そのあるべきモデルを作って、さらに評価することが人間の役割となると思います。

成熟段階においては、合理性の優劣に間違いがないような判断は機械に任せ、可能性が5対5のようないずれも合理的に見えるときの意思決定が、人間の主な役割になると思います。機械の計算にすべてゆだねる人もいれば、機械の判断とは逆にリスクを取ってハイリスク・ハイリターンを狙う人もいるでしょう。また、そうした意思決定における「揺らぎ」のようなものをモデル化することも、新たな仕事になるのではないでしょうか。

──既存の人材派遣ビジネスの枠組みを超えて、人工知能による新しいビジネスを創出しようとされているように感じます。

そうですね。実際に、弊社のクライアント企業にInsight Matchingについて説明しに行くと「だったらウチの部署をテストに使ってほしい」というお話をいただきます。人材の専門性について評価、考課の項目や基準はあるけど、粒度が高く評価や考課が形骸化してしまっている。

ほかにも、自社の持つ技術やノウハウを辞書にマッピングし、全社で共有したいという声もありました。われわれとしても、Insight Matchingをただのマッチングツールとしてではなく、お客様向けにカスタマイズしたプロフェッショナルサービスとして提供することも計画しています。
 

集合的知性がビジネスの趨勢を予測する方法
──Insight Matchingが実現することで、人や企業、社会にどのような変化が起きるでしょうか。

現在、ひとりの技術者が一生の間に何回、転職するのかというと、平均で3回程度です。しかし、われわれの仲介を必要とせず、セルフサービスで求職者と求人企業がやりとりできれば、自分の好きなときにInsight Matchingの予測分析モデルを使って、最適な人材、企業が論拠・根拠を伴ってリコメンドされる。

人材側は、自らが目指すキャリアパスに向けて理想的なステップを知ることができるようになり、一方で企業側は、常にベストな人材を特定できるようになります。つまり論拠・根拠が示されることで流動化が促進され、組織が活性化されると思います。

さらに将来的に構想しているのは、「アイデンティファイドAI」という、自分の分身となるAIを、プラットフォーム上に作り出すことです。そのAI自身がプラットフォーム内で活動して、自分が望むキャリアパスに近づくためのアドバイスを探したり、学ぶべき技術、進むべきキャリアなどを示してくれるというものです。

──Insight Matchingの予測は過去のデータに基づくものです。意地悪な質問かもしれませんが、そこから将来や未来の可能性を予測したり、人間の知性を超えるようなものを生み出したりできるのでしょうか。

(前編で)あらゆる製品や技術を要素分解したツリー構造の辞書を作成すると、下層のキーワードになるほど、多くの製品や技術に利用されている要素となり、それぞれのネットワーク表現が可能になると述べました。

日々の業務における会話や、ニュース、研究論文などを定期的にキーワード抽出し、それらの頻出度や係り受けから相関性を評価して、先のネットワーク表現された各キーワードの属性値とすることで、業種・業界をまたいで、ある技術がこれから伸びていくのか、それとも衰退期にあるのか、そういう可視化ができるようになります。

このようなキーワードの時系列の変化を属性値として付与できる仕組み作りが可能になることが、ワトソンを活用することの利点でもあると思います。

このプラットフォームを進化させて、大量のデータを常に収集、分析、評価、蓄積していくことで、トレンドの変化やイノベーションの発現の起源を辿れるようになるはずです。そこまでいけば、人工知能が産業界全体のシミュレーションを行ったり、新たに生まれるイノベーションを予測することも可能ではないでしょうか。

まだまだ夢物語かもしれませんが、人材の流動化を促進するだけでなく、Insight Matchingを創発的なもの作りのプラットフォームへと発展させたいですね。