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#043

ワトソン日本語版登場。あらゆる「ことば」がナレッジになる

IBM | NewsPicks Brand Design
2016/3/29
今年2月、日本IBMソフトバンクは都内で共同記者会見を開き、IBM Watson(ワトソン)の日本語サービスを提供開始したことを発表した。これまでも国内企業によるワトソンの利用事例はあるが、それらは日本語処理に関する機能を独自に開発してきたものだ。今回の日本語版の提供によって、追加開発をすることなく、APIを介してワトソンの機能を直接利用することができるようになった。
「言語」に関する6のAPI提供
IBMが提供するコグニティブ・テクノロジー「ワトソン」の日本語版サービスがいよいよ発表された。今回のリリースによって利用できるようになったAPIは以下の6つだ。

1.Natural Language Classifier(自然言語分類)──機械学習や統計アルゴリズムを独自に実装しなくても文章の内容や意図するところを解釈できるようにする。

2.Dialog(対話)──対話型のインターフェースにおいて、相手の意図や会話内容などに応じて、回答する文章を調整して自然なやりとりを実現する。

3.Retrieve and Rank(検索およびランク付け)──ユーザーの質問や検索ワードにもっとも関連性の高い回答を見つける。機械学習によって多くの情報から適切な回答を探し出すために必要なトレーニングできるようにする。

4.Document Conversion(文書変換)──PDFやWord、HTMLなどさまざまなファイルフォーマットのコンテンツを、ワトソンが解釈可能な形に変換する。

5.Speech to Text(音声認識)および6.Text to Speech(音声合成)──IBMが培ってきた音声認識技術をもちいて、ワトソンが人の声を直接認識したり、合成音声によって発話したりできる。

英語版のワトソンでは、上記の6つだけでなく画像認識やデータ分析なども含めた20近いAPIが公開されている。そのなかから今回は、言語依存性が高い6つを選び、優先的に日本語化した。

日本IBMの吉崎敏文 Watson事業部長は「金融機関や医療機関などにもワトソンを積極的に販売していく」と話す
日本語版は「ワトソンの里帰り」
発表会には、日本IBMの社長・ポール与那嶺氏が登壇。「ワトソンの原点は、約30年前に日本の大和研究所にて開発していたテキストマイニング技術にあり、今回の日本語版はある意味で里帰りと言えるもの」と、日本とワトソンとの隠れた関係を紹介した。

さらに「ソフトバンクとの提携によって、短期間で日本版を出すことができた」と、ソフトバンクとの提携を高く評価した。

続いて登壇したソフトバンクの社長兼CEOの宮内謙氏も「ソフトバンク社内では6つのワトソンのプロジェクトが走っている」と、ソフトバンク社内外でワトソンを活用していく方針を改めて強調。同社のロボット「Pepper」からもワトソンが利用できるようにすることも明らかにした。

さらに、ワトソンを使ってどのようなことが可能になるのか、IBM自身によるデモンストレーションのほか、先行してワトソンの利用に取り組んだパートナー企業も登壇し、その活用について語った。

「原点が日本にあるWatsonの日本語版を紹介できることがうれしい」と話すポール与那嶺 日本IBM代表取締役社長
導入検討はすでに150社以上
IBMによるデモンストレーションは、アパレル系のECサービスだ。ユーザーがログインすることで、ワトソンがユーザーデータを認識し、好みや買い物の傾向を把握する。そして、自然な会話で接客をしながら、ユーザーの「明るめのジャケットが欲しい」といったニーズを示す発言と、過去のデータを参考にして、最適な製品を提案するというもの。

カラフル・ボード株式会社のCEO・渡辺祐樹氏は、人工知能によるコーディネートを支援するアプリ「SENSY」を紹介。ワトソンを用いた音声によるインターフェイスをSENSYに搭載することを明らかにし、対話しながらその日のユーザーの気分に合ったコーディネートを提案するデモンストレーションを見せた。

三菱東京UFJ銀行の専務取締役・村林聡氏は、LINE公式アカウントによるQ&Aサービスに、ワトソンを活用していることを公表。「家族の名前で振り込みたいが何を持っていけばいいの?」といった利用者からの質問に対して、ワトソンが確度の高い回答上位3つを示すというもの。また、将来はワトソンを使った「eフィナンシャルプランナー」による投資相談も予定しているという。

この他にも、健康支援アプリを開発するFiNCがワトソンの搭載予定を明らかにしたほか、第一三共創薬への利用の検討に入ったことを表明。エンジニアに特化した人材派遣会社のフォーラムエンジニアリングは、ワトソンを利用した求職者と募集企業とのマッチングを4月から開始すると語った。

今後の展開については、日本におけるワトソンの営業活動は、ソフトバンク日本IBMと連携しながら独占的に行っていく。すでに150社以上の企業が検討し、実際に十数社が契約済みだという。

記者からの質問に答えるポール与那嶺 日本IBM代表取締役社長(左)、宮内謙 ソフトバンク代表取締役社長 兼 CEO(中)、マイク・ローディン IBM Watson担当シニアバイスプレジデント
蓄積した「ことば」を有効活用
与那嶺社長が話したように、ワトソンの特徴は「ことば」の処理能力が高いことにある。ワトソンには画像認識の機能も備わっているが、今回のリリースでは言語依存度の高いAPIが優先的に提供された。

企業の内部に蓄積される「データ」は膨大に増え続けているが、なかでもデータとして十分に活用されていないものの多くは「テキスト」だ。小売りにおけるPOSデータや、製造におけるプラントのデータ、顧客データといったものをはじめ、日常業務のなかでも日報や報告書、申請書やビジネスメールなど、さまざまなテキストデータが発生している。

ワトソンの「ことば」の処理能力を用いれば、そうしたテキストも「データ」として分析できるようになる。それによって、従来は「人」が持っていたさまざまな業務上のノウハウも、明確なナレッジとして誰でも再利用可能なかたちで共有できるようになる可能性が開ける。

流行のディープラーニング・システムが学習した結果、つまり人間の「記憶」に相当するデータも、実は人にはほとんど理解できないデータの塊だ。そのため、学習成果を人間が把握するためには、機械によって人間の言葉として表現してもらう必要がある。そこに、ワトソンのように言語処理に優れたコグニティブ・コンピューティングが活躍するもうひとつの場がある。

ワトソンの日本語版がリリースされたことで、企業のデータ活用は新たなステージに移行することになりそうだ。