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#061 コンサルタントの洞察力:本質を見抜き、課題を解決する「七つ道具」

A.T. カーニー Webサイトより

 

「洞察力」の定義と課題解決の七つ道具

「自分と同じ情報しか持っていないのに、示唆に富んだ発言をする人」─周りにそんな人はいないだろうか?情報は、そこから本質を見いだして初めて価値を持つ。情報の本質こそが、課題を解決する判断・行動を導出するための材料たりうるからだ。この本質を見いだす力が「洞察力」である。

本稿では、まず課題解決プロセスを説明し、そのプロセスでどのように洞察すべきかを解説する。そして、洞察における思考方法を、七つ道具」として紹介しよう。

最後に事例を取り上げるので、実際の現場で「七つ道具」は具体的にどのように活用できるのか、ご自身の仕事と照らし合わせながら、お読みいただきたい。
課題解決プロセス

課題解決プロセスは「Ⅰ.現状の把握」「II.実現したい状態の明確化」「III.打ち手の策定」の3つから構成される。IとIIの間に立ちはだかるハードルが「課題」だ。

「I.現状の把握」では、社内外の客観情報を取得・整理し、現状の姿を浮き彫りにする。「II.実現したい状態の明確化」では、客観情報のみならず、企業としての想い(ミッションや企業理念など)といった主観情報も加味する。ここでは、実現したい状態を明確化すると同時に、「現状」と「実現したい状態」の間のハードルである「課題」も明確化する。

最後の「III.打ち手の策定」では、課題解決のための判断や行動(=打ち手)を策定する。ここでも主観的な情報を織り込む必要がある。仮に同じ課題、同じ経営資源を持った企業であっても、経営理念が異なれば、最良の打ち手も変わってくるからだ。
洞察のプロセス

洞察は「整理整頓」 抽出」 示唆化」で構成され、課題解決プロセスの段階ごとに、洞察の仕方は異なる。

現状の把握
i.「整理整頓」:情報の収集・取捨選択・補完を意味する。客観情報を収集した後、フレームワークなどを活用し情報を整理する。その過程で、不足情報は追加収集もしくは類推することで補完する。また、不要な情報や疑わしい情報が出てきた場合は排除する。
ii.「抽出」:情報を構造化した上で、「要は何か?」を抽出する。情報から「要するに現状はどういった状態なのか」を抽出しなければ、課題を解決する上で意味をなさない。
iii.「示唆化」:「抽出」段階で得られた「要は何か?」を、企業(または個人)にとっての提言に昇華する。例えば、 抽出」により、 市場は縮小しており、縮小傾向は今後も継続する」というメッセージが得られたとしても、このままでは「だから何なの?」と言われかねない。意味のあるメッセージとは、例えば「市場寡占化が進むため、今がシェア向上の絶好の機会だ」のように、主体に対する示唆に富んだものでなくてはならない。

実現したい状態の明確化
i.「整理整頓」:現状把握のように客観情報を整理するだけでなく、主観情報の優先順位づけも行う。 実現したい状態の明確化」では主観情報を加味するが、一方で、想いをすべて加味してしまうと、その主体にとっての常識から抜け出せない。それゆえ、主体にとってどの想いが重要なのか、優先順位をつける必要がある。
ii.「抽出」:客観的情報を用いて、仮説的構造を抽出する。仮説的構造とは、客観情報に基づいた将来の社会・業界構造に関する仮説のことを指す。例えば、顧客のニーズがどう変化していくか、などを高い蓋然性をもって推測したもののことである。
iii.「示唆化」:客観的情報から得られた仮説的構造を踏まえながら、主観情報を組み合わせ、企業(や個人)の実現したい状態を明確化する。

打ち手の策定
i.「整理整頓」:まずは、制約条件がないという前提で、打ち手のオプションを洗い出す。そしてそのオプションを整理、つまり構造化する。
ii.「抽出」:真の制約条件を抽出する。社内の人材不足、企業理念との相反など、さまざまな制約が考えられるが、これらが本当に制約条件たりうるのか、見極めていく。
iii.「示唆化」:「整理整頓」した制約条件をもとに評価軸を設定した上で、評価軸に優先順位をつけ、オプションを評価する。評価を通じて、とるべき判断や行動を選択する。経営課題に対する唯一解は存在せず、主観的判断を交えながら評価・決定した結果が最終的な解となる。

以上が、課題解決プロセスに沿った「洞察」の全容である。そして、より適切に洞察するために、このすべてのプロセスにおいて駆使すべき思考方法=「七つ道具」を紹介しよう。
洞察のための「七つ道具」

①レンズ:視点を変化させて考える
レンズを通すと普段と違う風景を見ることができるように、様々な視点からモノゴトを考えることが1つ目の道具である。具体的には「全体観を捉える/部分に着目する」軸を設定し視点を移動させる」「言い換えてみる/置き換えてみる」の3つの方法がある。
「全体観を捉える/部分に着目する」は、議論中に「全体のうち、Aに絞り込んで議論を進めると…」今議論しているAを全体から見ると…」といった考え方をすることを指す。もし全体観を捉えないと、本来議論すべき論点から外れたり、議論内容が漠然としたまま深まらなかったりする危険がある。
「軸を設定し視点を移動させる」ことは、発想の転換に有用である。具体的には、一般的に議論の前提であり、議論の対象となりにくい時間軸(短期視点/中長期視点など)や空間軸(企業視点/社会視点など)を変化させて考えてみることだ。当社への影響は…」今年の売上への影響は…」ではなく、「10年後の社会への影響は…」グローバルへの影響は…」と時間軸や空間軸における検討範囲を広げると、考えを深めることができる。
設定する軸は時間軸や空間軸以外もある。例えば、商品の適正価格を議論する際に、あえて「カテゴリ内で最高価格を設定したらどうなるか…」といった考え方をすることも有用である。そうすることで、現状よりもよくなる点や、逆に悪くなる点が明確になり、議論に深みが出る。この例では価格の高低を軸にとって視点を移動させて考えているわけだ。
「言い換えてみる/置き換えてみる」ことは、対象を単語や一文で言い換えることを意味する。例えば、会社という組織を、人間の体に例えてみるとどうだろう」と発想してみる。対象を、あらかじめよく知っているものに置き換えて考える過程で、対象の様々な側面にスポットをあてると、対象の本質を抽出することにつながる。
日本企業においては、上司と違う意見を言いにくかったり「日本にとって…」のような高い視点の議論が敬遠されがちだったりする。その結果、会議が始まるときにはすでに視点が固定されており、新たな視点が出てくることは少ない。レンズを使いこなすためには実際に様々な視点から物事を捉えてみる癖をつけるとよいだろう。

②ものさし:立場を変えて考える
人はそれぞれ、考えるときや判断するときの“尺度”を持っている。そこで、自分自身のものさしを一旦外し、各人の尺度に沿って考えることが、立場を変えて考える」ことになる。
同じ企業でも、立場などによって思考回路は異なる。ブランド損益に責任を負っている部署にとって、宣伝費の削減は、損益改善のために必要な手段の1つだが、宣伝部から見ると、予算を削られる悪手に映る。例えば、あなたがきちんと情報収集をして社内で提案をしても、いつも関連部署が動いてくれないとすれば、関連部署の立場でモノゴトを考えられていない可能性がある。
立場を変えて考えるためには、自分の立場を一度忘れることだ。私は消費者視点に立って考えている」という人も、よくよく聞くと「うちは××部が強いから○○できない」や「××はコスト高で利益が圧迫されるからできない」など、消費者よりも自社の都合を優先していることが多い。
ただし、立場を変えて考える」ことと、「相手に迎合して考える」こととはまったく異なる。「A部長は…が嫌いだから、本来…すべきだけどやめておこう」という思考ではない。

蛍光ペン:同じ真善美で考える
これは、判断・行動を行う人物の「感情を理解する」ことを指す。道具で例えるなら、各人の心に引っかかる部分をチェックする蛍光ペンのようなものだ。ものさしが他者の論理を推し量る道具なのに対し、蛍光ペンは他者の感情の機微に気づき、心に留めておくための道具で、ものさしを使って得られた情報に蛍光ペンで線を引く、というイメージだ。
この道具が重要な理由は、他者の感情(=真善美)を理解しないまま、論理のみに根ざして判断・行動をすると、判断・行動する人物が“感情的に否定”してしまう場合があるからだ。前述の宣伝費の例で、 論理的”には、宣伝部は宣伝費削減に対して否定的だと考えられる。しかし、実際には過剰な宣伝費に問題意識を持っている人もいる。問題意識を持っている人に、わざわざ「宣伝費が過剰」と提言しても意味がない。むしろ無用な反発を招き、得られたであろう協力が得られなくなってしまうこともある。
論理的に正しい洞察が、必ずしも納得感のあるものとは限らない。論理と感情を重ね合わせて導き出すことが、本当の洞察だといえる。

④フォルダ:構造化して考える
この道具は、パソコン上でフォルダを整理するように、 構造化して考える」ことだ。具体的にいうと「事象をMECEに考える」「因果関係を明確にして事象を階層化する」ビジュアルで捉える」の3つがある。
構造化して考えないと、自分自身の思考を整理しづらいだけでなく、第三者と議論する場合にも共通の土台がない状態に陥る。
まず「事象をMECEに考える」とは、情報を「漏れなく、重複なく」整理するということだ。この用語は広く認知されているのだが、実際にMECEに思考できている人は少ない。例えばマーケティング会議で、自社ブランドの強みや成功した場合の売上予測ばかりを記載している企画書が散見される。MECEという思考方法を念頭に置いておけば、競合ブランドや市場の動向など、情報に漏れがあることはすぐ分かる。
次に、 因果関係を明確にして事象を階層化する」とは、事象を要素に分け、それぞれの因果関係を明確に論理展開し、結論に至る過程を階層構造化して捉えることだ。
「『最近味が落ちた』といわれていたラーメン店がいよいよ廃業してしまった」という例で考えてみよう。多くの人は、 味が落ちた→人気が落ちた→売上が落ちた→資金繰りが立ち行かなくなり廃業 =結論)」という因果関係を想像すると思う。しかし、これは短絡に過ぎる。まず、廃業の直接の原因は、資金繰りの悪化以外にも考えられる。たとえば、店主の個人的な事情で故郷に帰ることになったのかもしれないし、単にやる気がなくなった、他の業態に鞍替えしたというのが真相かもしれない。また、フランチャイズ本部との契約期限切れの可能性だってある。もし資金繰りの悪化が廃業の原因であったとしても、店の売上の減少以外にも可能性はある。本業以外の投資活動(例えば外国為替)で損失を被り、店の運転資金が費えたのかもしれない。仮に、売上の減少が資金繰り悪化の直接的な原因だったとしても、 味が落ちた」のが原因とは限らない。例えば、近所に強力な競合店ができてそちらに客を奪われた、平日の売上を支えていたランチ需要の源である近隣の企業が移転してしまった、などの可能性もある。このように「味が落ちた」という観測が直ちに廃業を説明する因子とはならない。 事象を正しく捉えるには、多数考えられる原因を1つずつ丹念に辿ってゆく思考過程が不可欠だ。事象の階層化は、これを要領よく行うための強力なツールである。
「ビジュアルで捉える」ことは、コミュニケーション時だけでなく、思考を深める際にも有意である。自分の考えを紙にまとめる過程で、不足している情報や、論理の飛躍などに気づくことができる。
「フォルダ」思考を使いこなせるようになるまでは、周囲に協力を仰ぐとよいだろう。情報を構造化したものを第三者にチェックしてもらったり、第三者のアイデアが構造化できているかをチェックしたりするのである。もし当てはまるハコがなかったり、逆に、当てはまるハコが複数存在したりする場合は、構造化できていないと判断できる。

⑤自由帳:真の制約を抽出して考える
罫線に囚われず絵をかける自由帳のように、既存制約を所与とせずに物事を捉えることが 5つ目の道具である。この道具は、特に「打ち手の策定」プロセスにおいて、見かけ上の制約を「真の制約」「対応策によりクリア可能な制約」 無関係な制約」に分類する上で活用できる。
「無関係な制約」とは、一見もっともらしく聞こえるものの、紐解いていくと実は打ち手とまったく関係がない制約のことである。例えば「我が社のプライドが許さないため、それはできない」などがそれにあたる。実際、 打ち手」に対して「できない理由」を挙げる人は多いものの、よく考えると「真の制約」でない場合が多い。
そして、この「対応策によりクリア可能な制約」と「無関係な制約」を除いたものが「真の制約」となる。
制約=所与という概念から抜け出すためには、制約を3つに分類する癖をつけておくことが重要である。それにより、ゼロベースで打ち手を検討でき、結果として、インパクトの高い施策立案が可能となる。

⑥メモ:直感を信じて考える
この道具は、メモに考えを書き留めておくように、 直感」を捨て置かずに論理的に検証することを指す。
ここでいう「直感」は、 仮説」とは似て非なるものである。「仮説」には含まれない“第六感から出てきた思いつき”こそが「直感」である。
「直感」は単なる思いつきなので正しくないのではないかと思われるかもしれない。しかしながら、示唆に富んだ発言をする人は「直感的には○○じゃないかな」「ドタ勘、○○「だと思う」違和感がある」といった言葉をよく使い、そういった「直感」を検証すると論理的にも正しいことが多い。
「直感」は個人の経験や情報を無意識に構造化した結果であり、 直感」の背景には確固としたファクトやロジックが存在すると考えるべきだ。「直感」を検証する癖をつけることで、洞察のスピードアップを図ることができる。

⑦ラベル:「要は何か?」を考える
「要は何か?」を考えるというのは、構造化した情報から“一言メッセージ”を抽出することであり、情報を整理したファイルに、中身をまとめた「ラベル」をつける作業に似ている。ラベルづけは、主体にとって意味を持つメッセージになっていることが重要で、?について」?の件」のように、テーマを漠然とまとめたものでは抽出が不十分といえる。
十分な情報を収集し、資料も大量に作って会議に臨んだにもかかわらず、参加者の表情が冴えず、ピンときていないようだし、質疑応答もまばら。こんな経験はないだろうか。その原因は、情報をまとめると“要は××”」が不明確なままだからである。
「要は何か?」というメッセージをきちんと抽出するためには、メッセージに必要な要素を、まず頭に入れておきたい。メッセージは原則として①「What?」、②「Why?」、③「How?」の3つの問いに対する答えで構成されている。
「What?」に対する答えは、…である」「…をすべきである」などのように言い切る、結論としての要素である。そして「Why?」は、「What?」の答えに至った論拠を「なぜならば…」と述べる部分だ。「What」と「Why」は支え合う関係にあり、「What?」の答えが「Why?」できちんと説明でき、「Why?」の答えと「What?」の答えが矛盾しない。そして、「How?」に対する答えとは、「What?」の答えが「…すべきである」など打ち手を提案するものの場合、その方法を述べる部分だ。ラベルという道具を使う際、抽出したメッセージがこれらの要素を満たしているか、自己チェックするとよいだろう。
この思考方法を身につけるには、地道に訓練を積むしかない。具体的には、情報収集のたびに「要は何がわかったのか」を考えるだけでなく、実際に文章に書き出してみる、あるいは、口に出して人に伝えてみることをお勧めする。当然であるが、要は××」というメッセージは、端的にまとまっていなくてはならない。「エレベータートーク」という言葉があるが、エレベーターに乗っているのと同じ30秒?1分程度の時間内に、メッセージを分かりやすく相手に伝えられるよう、言いたいことを要約するとよいだろう。逆に、説明するのに5分も10分もかかってしまうなら、メッセージをまとめきれていない。
おわりに

日々、日本の企業買収や企業戦略に携わっていると、将来的な少子高齢化の閉塞感、終わりのないコスト削減要求、過度なコンプライアンスへの業務流出、継続する投資抑制、グローバル化が難しい言語力など、課題山積にもかかわらず、それを克服するどころか逆にそういったトレンドに押されて、日本企業・ビジネスパーソンの活気がさらに下降しているように感じる。

ビジネスパーソンが、自分の仕事に使命と誇りと達成感を持つことが経済活性化への全ての第一歩。私は、1人1人のビジネスパーソンの「戦略的構造化」力が少しずつアップすれば、日本にある1つ1つの仕事の質とスピードが高まり、仕事に目的を持った活き活きとしたビジネスパーソンが急増し、社会全体でその歯車がかみ合い始めると日本経済の生態系は飛躍的に活性化し、明るく前進力のあるものになると思っている。

構造化力向上の第一歩は、自分が疑問を持たずにやっている日常の些細な仕事でよい。たとえば上司への顧客訪問事前資料、部長は何を知っておけば顧客との面談でうまくいくだろうか?」、また一方、「こうすればいいのに」などと思うものは「どうして自分はそう思うんだろう?」と考えてみる。「なぜだろう、なんなんだろう」ということの軸を構造化して押さえ、その上に「こうだからではないか(仮説)」を考える、というエクササイズをシツコクシツコクやってみることをおすすめする。

日本の需要・技術的優位性に依拠していた強みが低くなり、コスト競争力のない産業において日本の空洞化は不可避なのかもしれないが、ならば、世界で稼いで日本に儲けを還流する仕組み作りを考えなければならない。即ち、日本のビジネスパーソンの先を見通し行動する“頭脳”までが空洞化してしまうと、この国に明るい未来は絶対に来ない。ぜひ、皆さんのような高い志を持ったビジネスパーソンの方々が、戦略的構造化」力(=頭脳)を鍛え、明日から日本中に、感動的なお仕事と素敵な職場を1つでも多く増やしていっていただきたい。