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#036

1人に1台の人工知能で、“感性”をネット接続する時代が来る

IBM | NewsPicks Brand Design
2015/10/19
IBM Watson(ワトソン)のエコパートナーとして、日本で人工知能を活用したサービスを開発している企業がある。言語化しづらい人間の“感性”を人工知能に学習させることで「ユーザーの人格を代弁できる存在」を作ろうとしているのが、ファッション業界で注目を集めるアプリ『SENSY』を提供しているカラフル・ボードだ。自ら研究者として開発をリードしている同社の代表・渡辺祐樹氏に、その活用と展望を聞いた。
人工知能が自分だけの「出会い」をマッチングしてくれる
──『SENSY』は人工知能を使ったファッションアプリとして話題ですが、具体的にはどのようなアプリでしょうか

渡辺:『SENSY』は、ユーザーのファッションセンスを学習する人工知能アプリです。表示されるファッションアイテムを「好き」「嫌い」で分類していくことによって、ユーザーの感性を人工知能が学習し、そのセンスにもとづいたファッションアイテムやコーディネートを提案してくれます。

──人工知能とファッションの組み合わせというのが新鮮ですが、これによってどのようなビジネスを目指しているのでしょうか。

僕たちのミッションは、「“出会い”を人工知能で広げること」です。出会いというのは、人と人だけに限らず、商品とかサービス、またあらゆる情報との出会いです。それによって人生が豊かになったり、良い方向に変わっていったりすることにつなげたいと思っています。

ここ十数年で、さまざまなものがネットを通じて手に入る時代になりました。ネットにつなげれば何でも買えるし、コンテンツだって自由に楽しめます。便利にはなりましたが、逆に情報量が増えすぎて、良い商品やサービスと出会うことが難しくなってきたという、次の課題が現れました。

たとえば黒いジャケットが欲しいと思って「楽天」で検索すると、該当する商品が90万件も出てきます。良い商品やサービスは多くあるけど、適切に出会えなければ、ユーザーにとっては存在しないのと同じ。「出会い」は今後のインターネットにおいて大きなキーワードになると思っています。

そこで僕たちが着目したのが、人の内部にある「感性」です。感性は、まだ世の中に情報として整理されていない分野です。それを情報化できれば、外部の世界にある膨大な情報とうまくマッチングができるはずです。

人の感性を理解し、整理するうえで有効なのが人工知能によるアプローチです。アプリ『SENSY』のバックエンドでは、ひとりのユーザーにそれぞれ1台の人工知能が動いています。このパーソナルな人工知能が、ひとりひとりの感性を学習し、その人にとって適切な情報を自動的に取ってきて、ユーザーとマッチングすることで、新しい出会いを生んでくれます。

渡辺祐樹(わたなべ ゆうき)
慶應義塾大学理工学部卒。在学中に人工知能の基礎研究を行う。2007より年IBMビジネスコンサルティングサービス(現・日本IBM)にて戦略コンサルタントとして従事した後、2011年にカラフル・ボード株式会社を設立し、代表取締役CEOに就任
人工知能を介した感性のプラットフォーム
──ファッションはあくまでも最初に取り組む一分野ということですね。

その通りです。サービスの全体としては、ベースとなるプラットフォーム上で1人1台の人工知能が動いていて、ネット上でさまざまな行動をするとき、アシスタントのように働かせることができます。一方で、個人と個人の人工知能同士を接続することも考えています。

自分の感性を覚えさせた人工知能を他の人と共有したり、他の人が育てた人工知能を借りたりといったことで、人の感性を流通させながら、人と情報が出会っていく場所。こうした「感性のプラットフォーム」が僕たちの最終的な構想です。

『SENSY』というプラットフォームの上で、ユーザーが自分の人工知能を作り、いろいろな分野において活用していく。企業はプラットフォームを通じて、ユーザーに適切な情報を届けることができます。APIを使って、このプラットフォームを使った新しいサービスをいろんな企業に作っていってもらいたいです。

たとえばファッション分野ならECサイト人工知能と接続することで、オンラインではもちろん、リアルな店舗での接客を変えていったりということができます。そうしたことをパートナー企業と一緒に作っていきたいです。それによって「1人1台の人工知能を持つ時代」が現実になっていきます。

──リアルの店舗で、人工知能の接客というのは、どんなイメージでしょうか。

9月16日から、新宿伊勢丹で「人工知能接客プロジェクト」をスタートしています。伊勢丹さんは中期経営計画の中で人工知能を使ったデジタル戦略を進めていて、そのパートナーとして『SENSY』を選んでいただいた。これから1年くらいかけて、いろんな段階を踏んで人工知能による接客を進化させていきます。

最初の時点では、店頭にタブレット端末を用意して、接客用の人工知能をインストールしてあります。お客さんに好みをヒアリングしながら、そのお客さんの感性にあった人工知能をその場で生成し、お店にある商品を提案するということをやっています。

そこで作った人工知能は、スマホアプリの『SENSY』にコードを入力することで、自分のスマホに入れて持って帰れます。今後は、自分が育てた人工知能を店頭でも簡単に利用できるようにする予定です。

そのほかの取り組みとしては、日本最大のファッションイベントである「東京ガールズコレクション」のテクノロジーパートナーにもなりました。イベントのファン層の好みを『SENSY』がデータとして収集し、人工知能を使って分析した結果を、世の中のリアルなトレンドとして発信していく予定です。

アパレル業界では、こういった取り組みに賛同していただけるブランドが結構いらっしゃって、かなり早い段階でビームスやシップスといった大きなセレクトショップに参加していただけました。そのおかげで、当初は100ブランドくらいを想定したところに対して、いきなり1800ものブランドが集まってサービスをスタートすることができました。現在も順調に増えており、2015年内には1万ブランドを超える見込みです。

2015年9月より伊勢丹新宿本店で『SENSY』の人工知能を使った店舗接客サービスが開始している。
ワトソンを生かすことで、人工知能が「自分の分身」になる
──『SENSY』は“非言語”の人工知能ですが、そこにワトソンをどう活用していくのでしょうか。

『SENSY』の人工知能は感性を学習するエンジンですが、ワトソンは自然言語でコンテンツを解析することに優れています。そこで、ワトソンが解析した言語の情報を元に、人の感性と結びつけることで活用したいと思います。

具体的には、自然言語処理によって商品を解析するというところだけでなく、人工知能とユーザーが会話をするインターフェースのところです。『SENSY』のフロントエンドにチャット型のフリーテキストで会話する仕組みを作り、そこにワトソンを使います。

例えば、「この夏はどんなファッションアイテムを買えば良いか」といったことを相談すると、今の流行のアイテムを教えてくれたり、雑誌の記事を紹介したりといったことを、ユーザーの感性を理解した上で、その人の好みに合わせて提案をしてくれる。

ワトソンは、ユーザーからの自然言語による質問を解析し、何が問われているのかを理解して『SENSY』に渡します。『SENSY』はそれに対する提案を返して、またワトソンがその提案をどういった言葉で表現するべきか解析します。

こんなふうに自由に会話するためのインターフェースをワトソンで実現できればと思っています。これができると、自分の人工知能だけでなく、他人の人工知能とも会話できます。例えば、有名人が『SENSY』を使って学習させた人工知能と、他のユーザーが話をすることができる。そういった『SENSY』の可能性を広げるのがワトソンでの取り組みですね。

実際、人気のあるモデルさんなどに、すでに『SENSY』を使い始めていただいています。そうした有名人の人工知能を有料で貸し出すということもビジネスとして考えています。

例えば、あるユーザーが好きなモデルの人工知能にアドバイスをお願いして、そのモデルになりきったコーディネートをするといった使い方です。また、プロのスタイリストが自分の感性で人工知能を育てて、それを貸し出していろんな人に感性を届けられれば、自分のファンも増えるし、仕事にもつながるはず。そういうエコシステムを作っていければと思っています。

──カラフル・ボードは、ソフトバンクによるIBM Watsonエコシステムプログラムのパートナーとして選ばれましたが、どのような経緯があったのですか。

B2B向けのワトソンの活用法としては、すでにコールセンターなどでの導入事例がありますが、人工知能をC(コンシューマー)向けにどう使っていくのか、開発やビジネスに取り組んでいるところはまだほとんどありません。そのなかで、僕たちの『SENSY』をC向けの優良なサービスとして評価していただきました。

そうした経緯で、エコシステムプログラムの初期パートナーとして選んでいただき、ワトソンのAPIを利用できるようになりました。このAPIはまだベータ版で、すべての機能が利用できるわけではないため、本格的な開発はこれからです。手探りで開発を進めているところですが、来年にはワトソンを使った『SENSY』の会話機能を提供したいと思っています。