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#035

ソフトバンクがワトソンを売るのは「ビジネスに使える」とわかったから

IBM | NewsPicks Brand Design
2015/10/6
ソフトバンクが「IBM Watson(ワトソン)」を売ると聞いても、具体的にどんなビジネスで、どのような活用が可能なのか、多くの人にはイメージしづらいというのが正直なところだろう。だが、世界に目を向けてみれば、すでにワトソンを利用したアプリは250以上も開発されている。コールセンターでの応答支援を皮切りとして、実際のビジネスの現場にも徐々に入り込みつつある。ワトソンによって、いったいどんな新しいビジネスが可能になるのか。そのビジョンを同社の中山五輪男氏に聞いた。
ググる」と異なるワトソンの柔軟な検索力
──ワトソンはクイズ番組で人間のクイズ王に勝ったことで話題となりましたが、具体的なビジネスシーンでどういった活用が可能なのでしょうか。

中山:ワトソンはユーザーの質問に対して回答を出すときに、与えられた情報に対して自らの推論をもとに仮説を生成し、その答えを導き出した理由付けと、回答の確からしさの論拠を出してくれます。そこが従来のキーワード検索と大きく異なる特性です。

仮に、ワトソンに絵本の『桃太郎』を学習させるとします。そして「桃太郎が戦っているシーンを教えて」と質問すると、桃太郎と鬼が戦っているページを教えてくれる。

ですが、その中には「戦う」という単語はなく、「桃太郎が刀を振りかざした」という記述があるだけのページもある。つまり、ワトソンは物語と質問の内容を解釈したうえで、文脈を判断して回答するわけです。

こうした能力は、たとえば医療分野での研究にも役立ちます。医療の世界では毎日のように新しい論文が発表され、学会が開催されており、そのデータ量は膨大なものです。それらの文献や論文、講演などをすべてワトソンに記憶させる。

そのうえで、あるタンパク質がある種のがんに効くかどうかワトソンで調べると、単純にキーワードだけでは引っかからない類似の研究や、一見すると無関係な研究だが実は関係があるかもしれない、といったものを探し出すことができます。

従来のキーワード検索では不可能だった広範囲で柔軟な検索が可能になることで、これまでは人間が自分で見て、判断するしかなかったような仕事でも、コンピュータが代わりに行うことができるようになります。

現在、みずほ銀行三井住友銀行三菱東京UFJ銀行という日本のトップ3のメガバンクが、コールセンターにワトソンを導入し、実績を上げようと各種実証実験が展開されているようです。さまざまな質問が寄せられるコールセンターでは、オペレーターがすべての回答を記憶しておくことは不可能です。

また、通常の検索システムでは、お客さまの要望に的確に応えることは難しいですが、ワトソンなら質問の文章を解釈して回答するので、効率がかなり違いますね。

中山五輪男(なかやま・いわお) ソフトバンク首席エヴァンジェリストとして、iPhoneiPadおよびPepperの事業推進を担当。Watson事業推進室にも所属し、全国各地で講演、執筆などを行っている
ワトソンで最適な人材マッチングが可能になる
──ソフトバンクとしては、今後ワトソンをどのように販売していくのでしょうか。

ソフトバンクではこれまで、自分たちで使ってみて良いと思ったものを売るというやり方をずっとしてきました。昔でいえば「Lotus Notes」もそうだし、「iPad」も全社員に配って、とにかく使ってみて、その良さをお客さまに伝える、というやり方をしてきました。

ワトソンも同様です。現在、社内ではワトソンを使ったプロジェクトがたくさん動いているのですが、そのひとつに人事部門で活用するための「マッチングワトソン」というものがあります。社内人事を、ワトソンによって効率化するプロジェクトです。

たとえば社内で退職者が出た際に、その人が担当していた業務レベルと同じようなスキルを持った人材を、候補者のデータベースの中から探せるようになります。

ワトソンには「Personality Insights」というAPIがあり、これを用いるとソーシャルメディアやメールなどに投稿されたテキストから、その人のパーソナリティを分析することが可能です。その分析に基づいて配置転換や採用などを行えば、当該部署のニーズにマッチする人事が高確率で行えるはずです。

ビジネスへのより積極的な活用としては、「SoftBank BRAIN」というアプリを開発中です。これはわれわれの日常的な業務のさまざまな場面で、ワトソンがアシストをしてくれるというものです。

たとえば営業に行くとき、事前に訪問先の企業について調査して、財務状況や評判を分析します。すると、そこから得たヒントに基づいて、参考になりそうな提案資料を社内データベースから探し出したり、社内の関係人物の情報を事前にリサーチできたり、といったサポートをワトソンが自動的に行ってくれます。いわば優秀な秘書であり、的確なアドバイスをくれる上司のような存在になる可能性も秘めています。

こうした仕事上の細かいノウハウは、従来は人にしか蓄積できませんでした。しかし、ワトソンなら学習を繰り返していくことで、データベース上にノウハウを蓄積して、全社的に利用できるようになるわけです。

もちろん、最初から完全なものがつくれるかどうかはわかりませんが、そこを理想として目指しながら、まず自分たちの人事部門や営業部門、ソフトバンクショップなどで実際に運用していくことを考えています。そして来年以降は、それらを対外的に販売していくことも十分に考えられます。
 

ワトソンをいかに活用するか。すでに開発競争は始まっている
──ソフトバンクがワトソンを販売するというと、具体的に何を売るのかイメージしづらかったのですが、今のお話でだいぶ見えてきました。Pepper(ペッパー)とセットというわけではないんですね。

ペッパーにいろいろな人工知能(AI)がつながるように、ワトソンもさまざまなものにつながることができ、ペッパーはそのひとつにすぎません。企業ならスマートデバイスやPCからアプリというかたちで使うでしょうし、一般家庭ならテレビなどの家電かもしれません。

ワトソンは、それ単体で何かをするものではなく、プラットフォームとしてその上でさまざまなアプリをつくっていくものです。ソフトバンク日本IBMと共同で、ワトソンの新たなビジネスアイデアを展開するために、エコシステムパートナーを募集しています。これに参加することで、ワトソンのAPIをいち早く使ったアプリケーションを開発できます。

──そこからワトソンを活用したベンチャー企業がたくさん出てくるでしょうか。

そうなってほしいですね。ベンチャー企業が優秀な販売員になれるエンジンをワトソン上で開発して、広く販売することも考えられます。ソフトバンク日本IBMと一緒に、そうした企業を支援していきます。

海外では、すでにいくつもの企業がワトソンを使ったアプリケーションを開発しています。eyeQという会社は、店頭に来たお客さまをカメラで認識し年代、性別、感情などを読み取り、そのお客さまのツイッターアカウントからワトソンのAPIを使って好みを分析し、お客さまに最適な商品を提案するというアプリを開発しました。

ほかにも、過去の「TEDカンファレンス」のアーカイブをワトソンによって自動的にテキスト化し、ユーザーが好きなキーワードを打ち込むと、それに該当する箇所を抜き出した映像を作製するというアプリもすでに公開されています。

ワトソンを利用したアプリは、今では全世界で250を数えるほどに増えています。取り扱う分野も小売りや医療だけでなく金融や建築など、さまざまな業種、業態へと広がっています。こうしたワトソンのエコシステムを日本にも広げることがソフトバンクの役割のひとつです。

初期エコシステムパートナーとして、国内でもすでに数社に参加いただいています。彼らはワトソンのAPIをいち早く使って、独自アプリの開発に取り組んでいます。間もなく、日本語で利用できるワトソンを使ったアプリやサービスが登場するはずです。

第4次産業革命人工知能がけん引するといわれています。ワトソンはその先駆けとなるものであり、ワトソンを使った新しい技術開発、サービス開発の競争は、もうすでに始まっているのです。