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#038

みずほ銀行インキュベーション室は「失敗すること」が目的だった

IBM | NewsPicks Brand Design
2015/12/1
日本のメガバンクとして、コールセンターにいち早くIBM Watson(ワトソン)を導入したみずほ銀行。さらには窓口に人型ロボットPepperを設置して接客に活用するなど、銀行業務に人工知能を積極的に取り入れようとしている。前編に引き続き、みずほフィナンシャルグループ“インキュベーションプロジェクトチーム”の金子慎太郎、井原理博両氏に、10年後を見据えた銀行の新しい取り組みについて聞いた。
前編:みずほ銀行の10年後を見据えたら、ワトソンが必要だった
スタートアップ企業と同じ目線、同じ速度で走る部門
──ワトソンは、企画のスタートから導入までの期間が約半年と、とても早かったことが印象的です。それに、銀行にインキュベーション室があるというのにも驚きました。

金子:われわれインキュベーション室は、2014年4月に発足してから1年ほど、ふたりだけの状態が続きましたが、1年後には7人に増えました。

このころから、FinTechという言葉に注目が集まるようになってきており、これまでインキュベーション室が担っていた新たなビジネスを創出する取り組みをあらゆる分野でさらに強化するため、7月には、みずほフィナンシャルグループにインキュベーションプロジェクトチーム(PT)という組織を立ち上げました。

インキュベーションPTの発足には2つの意味があります。1つは、先ほど言ったとおりグループ全体で横断的に取り組むということです。もう1つは、PTをみずほフィナンシャルグループ副社長である岡部俊胤の直下に置くことで、意思決定を迅速にするということです。

現在、インキュベーションPTのメンバーには、支店長経験者や、米国でのリテール業務経験者、元システムエンジニアシリコンバレー出身者、留学してMBAを取得してきたばかりの者など、さまざまなバックグラウンドを持った20名程度の人材が集まり、さらにグループ全体で約50名の体制で、新たなビジネスの創出に取り組んでいます。

インキュベーションPTが発足したとき、副社長の岡部は最初に「早く失敗しろ」と言いました。「堅い」という世間のイメージ通り、銀行には、検討に長期間を要したり、リスクテイクに慎重であったり、といった傾向があったことは否めません。

しかし、それでは時代や環境の変化、何よりもお客さまから取り残されてしまう。われわれインキュベーションPTは、スタートアップ企業の方と同じように、新しいサービスを迅速に提供し、お客さまの意見をフィードバックして商品やサービスを改善していく部門でなければなりません。

また、さまざまなスタートアップ企業、ベンチャー企業と協業することで、新しいテクノロジーをいち早く導入していきたいと考えています。スタートアップ企業やベンチャー企業と協業する際には、それらの会社と同様のスピード感が求められます。

岡部は、「失敗を恐れずにチャレンジしていけ、失敗から学ぶヒントがたくさんある」、という意味で、「失敗しろ」と言ったのです。

(右)金子慎太郎(かねこ・しんたろう)株式会社みずほフィナンシャルグループ インキュベーションプロジェクトチーム 参事役  (左)井原理博(いはら・ただひろ)同チーム発足メンバー
みずほ銀行がLINEと提携したワケ
──現在、FinTechが注目を集め、既存の銀行を飛び越えるようなサービスが生まれています。このような状況に危機感を感じていますか。

金子:危機感があるからこそ、インキュベーション室、インキュベーションPTといった組織ができ、人数も増やして、副社長の直轄でやっているのだと思います。ただ、われわれは現状に危機感だけを感じているのではなく、チャンスでもあると考えています。

先月から、LINEさんと提携して、「LINEでかんたん残高照会サービス」というサービスを展開しています。みずほ銀行LINE公式アカウントからサービスに登録し、トーク画面からスタンプを送ると、即座に口座の残高照会や入出金明細照会ができるというサービスです。

LINEは既に日常生活に溶け込んでおり、国内だけでも6千万人のユーザーがいます。これは、みずほ銀行のお客さまと比較しても倍のユーザー数です。こうしたアプリと提携することによって、今までみずほ銀行と取引のなかった何千万人というお客さまに使っていただける。これは大きなチャンスであると捉えるべきです。

──確かに、メガバンクがテクノロジーベンチャーと連携するインパクトは大きいですね。LINEと連携した狙いはなんでしょうか?

金子:目的は、より良いサービスをお客さまに提供するということなのですが、新しい取り組みにチャレンジし、発信し続けることで、結果として「みずほって先進的だよね」と感じてもらいたいのです。旧態依然としたサービスを続けているだけでは、やがて市場から取り残され、お客さまからも評価していただけなくなってしまうでしょう。

お客さまにみずほ銀行を選んでいただくために、常にユーザー目線で、UIやUXを重視して、お客さまが便利であったり、スピーディーであったり、心地よかったりと感じられるサービスを提供し続けなければなりません。

銀行との取引は、スパンの長い取引だと思います。一度口座を作ると、何十年とご利用いただくお客さまがたくさんいらっしゃいます。今後もそういったお取引をしていただくためには、常に新しいことを発信してサービスをレベルアップしていく、あるいは今までとはまったく違うサービスを提供する、ということを継続していかなければならないと思います。

窓口にPepperを導入した際も、最初は「それで何をするの?」と言われました。銀行がPepperを置きますと言っても、何をするのかよくわからなかったのでしょう。でも、よくわからないようなことから、何か新しい価値が生まれるかもしれない。

──なるほど。Pepperはインキュベーション室にとってひとつの実験なんですね。

井原:もちろん失敗させないために、いろいろと考えています。しかし、たとえ結果として失敗してしまったとしても、失敗から学べることを次に生かす。チャレンジすることが重要なのです。

Pepperは、現時点では、店舗でお客さまにお待ちいただいている時間での応対がメインです。ただ、それによって、お客さまに、「みずほが新しいことをしている」ということを見ていただき、お客さまのご意見をお聞きすることで、新たな気付きやヒントが得られ次のステップにつながります。

今年10月からスタートした「LINEでかんたん残高照会」。LINE上での口座照会機能の提供は邦銀初の取り組み。
10年後「もっとも先進的な銀行」の姿とは
──ワトソンに限らず、新しいテクノロジーが次々と登場しています。そうしたものを取り入れることによって、銀行はどのように変化していくでしょうか。

金子:Pepperやワトソンなどは、銀行の基幹系システムではないところで動いています。だからこそ、失敗を恐れずにチャレンジできるのですが、将来的にはPepperやワトソンも基幹系システムにつないで、お客さまに対して、もっと色々なサービスを提供していく。個人的には、そういう世界が来ると思っています。

ただ、それはあくまでも接客についてのお話です。銀行のあり方や金融のしくみそのものをまったく変えてしまうようなものとしては、ブロックチェーンに注目しています。

アップルペイも裏側ではクレジットカードにひもづけられていますので、ユーザーの側、フロントの部分は便利になっても、裏側のインフラは既存のクレジットカードそのものです。

しかし、ブロックチェーンによって、既存のクレジットカードのインフラを一切使わないような新しいしくみが生まれたら、現在の金融のしくみそのものに変革をもたらし、場合によっては銀行がいらなくなるかもしれない。

ただ、テクノロジーにより、いろいろなことが自動化して便利になればなるほど、逆説的に、銀行の店舗、リアルな店舗の重要性は増すと思います。10年後も、20年後も、きっと必要とされます。

たとえテクノロジーが進展して、ネットで何でもできるようになっても、どうしてもオンラインだけでは不十分なところが出てくる。住宅ローンなどは、金利だけ比較するならネットだけで十分です。しかし、契約にあたっての保証料とか、団体信用生命保険とか、年末控除とか、登記とか、いろいろな手続きや雑務が発生するとなると、やはり人に相談したくなる。遺産相続などもネットで完結するかというと、ちょっと難しい。人間の暖かみのあるコンサルティングサービスは重要だと思います。

10年後、みずほ銀行が最も先進的な銀行となるために、今から失敗を積み重ねていくことが、われわれインキュベーションプロジェクトチームの使命であると考えています。