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#039

人工知能がリコメンドする「健康情報」は生活を変えるか

IBM | NewsPicks Brand Design
2016/1/8
パーソナルトレーニングジムの運営に実績あるFiNCは、急成長しているヘルステック分野に進出し、人工知能を活用したヘルスケアサービスを提供している。ビッグデータとリアルの連携によって、いかにして人を健康にしていくのか。CTOを務める南野充則氏に話を聞いた。
ジム運営+人工知能がもたらすイノベーション
──FiNCはもともとパーソナルジム運営がメイン事業で、IT事業に参入して日が浅いですが、どういう経緯でアプリ部門を立ち上げたのでしょうか。

南野:日本の人口が1億2千万人いるなかで、ジムやフィットネスクラブの会員は約400万人しかいません。さらに、そのうち200万人が毎年退会していき、また新しい200万人が入ってくるという構造になっています。

リアルではどれだけ頑張っても、これ以上の利用者を増やすことは難しい。ならば時間と場所の制約を取り払い、新しいかたちのヘルスケアサービスを提供したい、ということを代表の溝口勇児が考えていました。そうしてアプリ事業に進出したのが2014年です。

最初のアイデアは、既存のパーソナルジムの指導をオンラインで受講できるようにするというものでした。しかし、その先にはアプリがユーザーに運動を促したり、食事のアドバイスをしてくれたりするような世界が絶対に来ると頭に描いていたので、最初から人工知能機械学習が必要になると考えていました。

私自身、FiNC加入前からヘルスケアの分野でこれからイノベーションが起きそうだと感じていて、自分でやってみようと考えていました。

ただ、それには高い専門性がボトルネックでした。予防医療のプロは、「栄養」と「運動」と「休養」という3つの分野をマスターしないといけない。自分でいまから勉強して専門家になるには、とても時間がかかる。そこで専門家としてパーソナルトレーナーの経験があり、すでにジム経営を行っていた溝口から声を掛けられ、昨年にジョインしました。

南野充則(なんの・みつのり)
1989年生まれ。東京大学工学部卒。大学在学中に株式会社MEDICAの設立、並びにCDSystem株式会社の創業。ソーシャル就活サイト「JOBOOK」を開発する。また東京大学在籍中に「再生エネルギー蓄電池導入シミュレーションの開発&研究」というテーマで国際学会で世界一の座を争い「BEST STUDENT AWARD」を受賞。その他にも薬価検索サイト「MEDCIA」、大手コンビニチェーンに導入されているOTCレコメンドシステム「ANZOO」、無電化地域向け電力管理アプリなどの開発も手がける。2014年にFiNCにジョインしCTOに就任。
専門家との提携で「信頼できる健康情報」を配信
──2016年3月にソフトバンクと共同でスタートする「パーソナルカラダサポート」とは、どのようなサービスでしょうか。

サービスとしてはシンプルなものです。ユーザーの生活習慣に関するアンケートに加えて、オプションで遺伝子検査とか血液検査などの結果を蓄積します。そのデータに基づいて、「あなたの生活習慣ならば、こんな食事が良いですよ」「このくらい運動したほうが良いですよ」といったアドバイスをすることで、利用者の健康向上やダイエットできるようなアプリを提供します。

アプリを利用していくと、ユーザーの生活習慣が把握できるので、それにあわせて改善するためのToDoリストを自動的に作成できます。ユーザーに必要なアクションをかなり具体的なタスクに落とし込んでいて、水分不足の人には「今日から2週間は毎日、水を2リットル飲みましょう」とか、朝食を抜きがちな人には「朝食に野菜を食べましょう」といった助言をプッシュします。

──そうした健康情報の正しさはどう担保しているのでしょうか。健康情報には不確かなものも多く、社会問題にもなっています。

僕たちは社内で薬剤師や医師による専門チームを作っています。そのチームが医学論文などの情報を収集し、エビデンスに基づいたコンテンツを作っています。もうひとつには、自分たちで「アンチエイジング学会」を立ち上げています。多くの栄養士やトレーナー、医師や研究者、健康関連企業などにも参加していただいています。

おっしゃるように、健康に関する情報に多くの人が「うさんくさい」と思ってしまっているところがあります。企業がそういった情報を発信すると、消費者は疑いの目で見てしまいがちです。僕たちは、ユーザーにとって一番誠実な情報を伝えていきたいので、それに賛同してくれる人たちと一緒に、個人個人にパーソナライズされた情報発信を行っています。

──FiNCではすでに独自のヘルスケアサービスを立ち上げていますが、「パーソナルカラダサポート」はそうしたサービスの上に乗っているのでしょうか。

FiNCとしてこれまで独自にやってきたことは、ヘルスケアに関するデータを収集できるアプリの提供です。ユーザーの栄養や運動、メンタル面のサポートを、専門家であるトレーナーや栄養士から受けることができるサービスです。

アプリの裏側にはデータのプラットフォームがあります。アプリを使うことでたまっていった健康データをもとに、ユーザーにパーソナライズした形でさまざまなコンテンツを提供できる学習エンジンを独自に作っています。食事のレシピや食べ方、また筋トレやストレッチ、ヨガなどの運動計画をユーザーにコンテンツとして配信します。

こうしたレコメンドを実現するためには、ありとあらゆるデータが必要になります。例えば、生活習慣のアンケートだけでも300項目くらいある。新しいアプリでは1日に5個ずつ答えてもらい、だんだんとデータがたまっていくようにしています。

そして今回リリースする新アプリは、よりユーザーフレンドリーなものにしようと考えていました。そのために、機械学習できるエンジンを搭載し、ユーザーデータに基づいて、いろんなタイミングで「アプリが話しかけてくる」という仕掛けになっています。

起床時間に応じて「今日はちょっと早起きでしたね」というように話しかけてきたり、前日の食事量が多かったときは「今日は食べすぎないように気をつけましょう」と注意を促したりするなど、生活習慣の改善を促すようなプッシュ機能があります。

人工知能は「データをためたプレーヤーが勝つ」
──人工知能技術は自社で開発しているんですか?

ヘルスケアのログを分析する学習エンジン部分の開発はすべて自社で行っています。僕たちはヘルスケアに特化した会社なので、コアコンピタンスとして掘っていくところは自社でコンテンツを作り、データベースを構築していかないといけません。

一方で、ユーザーとのインターフェースになる言語認識の部分では、すでに高度な人工知能が存在します。自社の技術と外部の技術を使い分けていくかたちですね。

人工知能の技術そのものは、これから低レイヤーの分野ではコモディティ化されていくと思います。GoogleFacebookなどが提供しているAPIを使えば、一般的な分野での処理は誰でもできるようになります。でも、専門性が高いところでは最後にチューニングしていくことが必要です。そこが個々の企業にとっての武器になっていきます。

今後、自然言語解析をより健康に特化する必要性が出てきたら、その部分も自分たちで開発する必要性がでてくるかもしれませんが、いまはまだ、できるだけ素早く実装して、多くのユーザーの利用データをためていく段階です。人工知能の分野は、「データを多くためたプレーヤーが最終的に勝つ」という構図だと思うので、まずはそこを目指しています。