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#040

「健康」が企業の人材マネジメントの新しい評価基準になる

IBM | NewsPicks Brand Design
2016/1/9
人工知能技術と、それを利用したサービスの開発競争が激しくなっている。そうしたなか、FiNCはスタートアップ企業でありながら、ヘルスケア分野において大きな存在感を見せている。エンジニアにとって、現在の人工知能の技術とはどういったものなのか。FiNCのCTO・南野充則氏にうかがう。
人工知能プラットフォーマーになる条件とは
──「データを多くためたプレーヤーが勝つ」(前編参照)ということですが、人工知能開発にとってデータの蓄積量はどれくらい重要でしょうか。

南野:とても大事だと思います。なぜかというと、人工知能ビッグデータで統計的に解析して、確率的に答えを出すというものです。しかし、ヘルスケアのアプリを使ったユーザーがどんな質問をしてくるかは、実際に多くの人に使ってもらわないとわからない。

GoogleFacebook機械学習の分野で進んでいるのは、自分たちで検索データやチャットのデータを持っているからです。でも、ヘルスケアに関する悩みやコミュニケーションについてのデータを持っている会社はまだありません。

正直なところ、世界を見ても僕らほど、血液検査のデータやライフログなど、ヘルスケアに関するデータをそろえている企業はまだ存在しません。また、栄養士や医師などの専門家を抱えてしっかりコンテンツを作っている企業もあまりない。

もちろん、サービスや機能を切り出していくと、競合するところは結構あります。たとえば、リアル店舗ならフィットネスジムが競合になるし、ライフログを取るサービスも無数にあるし、健康情報をレコメンドしてくれるところもあります。

でも、僕らはライフログを「揺りかごから墓場まで」一気通貫で集めることを目指しているので、そこまでやっている企業はほかにない。そこで先行できれば、僕たちがこの分野でプラットフォーマーとしてポジショニングできると考えています。

──そうした健康情報やヘルスケア分野は、既存の医療分野とぶつかりませんか。

もちろん、医療業界とはうまくやっていかないといけません。データの収集についても医師と提携していく予定で、僕らがためたライフログをユーザーのかかりつけの医師に使ってもらい、診断や治療に利用するということも将来的には考えています。

基本的には、医師と僕たちは役割分担なんだと思っています。僕らは予防医療をしっかり押さえていき、できるだけ病気になる前に防ぐことをやっていきます。しかし、病気になってしまった場合は医師の領域です。そこで僕らのデータが必要なら使ってもらう。そんなふうに連携していくことが必要だと考えています。

いま、われわれは「ウェルネス経営」というテーマを掲げています。これからの企業経営にとって、従業員のパフォーマンスを向上させるための「心と身体の健康管理」は欠かせなくなってきます。そこで今月、全国の大手企業20社と共同で「ウェルネス経営協議会」を立ち上げ、今後もその啓蒙(けいもう)を行っていきます。

南野充則(なんの・みつのり)
1989年生まれ。東京大学工学部卒。大学在学中に株式会社MEDICAの設立、並びにCDSystem株式会社の創業。ソーシャル就活サイト「JOBOOK」を開発する。また東京大学在籍中に「再生エネルギー蓄電池導入シミュレーションの開発&研究」というテーマで国際学会で世界一の座を争い「BEST STUDENT AWARD」を受賞。その他にも薬価検索サイト「MEDCIA」、大手コンビニチェーンに導入されているOTCレコメンドシステム「ANZOO」、無電化地域向け電力管理アプリなどの開発も手がける。2014年にFiNCにジョインしCTOに就任。
企業経営者がヘルスケアに注目する理由
──ウェルネス経営協議会には、いくつもの大企業が参画していますが、今後はこうしたB2Bでの事業展開に力を入れていくのでしょうか。

体制としては、法人営業チームと個人向けチームがあり、両方を同時に進めています。ただ、この分野は法人を対象にしていても、最後には個人に戻ってくるものなんです。

会社全体で検査を受けたり、アンケートを取ったりして、部署ごとの健康リスクを算定して、一方で事業の業績と連動させてみると、たとえば業績が高くても不健康なグループは、おそらく今後業績が下がっていくはずです。

だから、僕たちのアプリを使って、ひとりひとりの社員が自分のデータを見られるようにして、自分が今どんな状態なのか、自分にどんな健康リスクがあるのかを知り、アプリのアドバイスに従って改善させていく。

使うアプリは法人であっても、個人向けのサービスであっても基本的には同じものなんです。入り口は違うかもしれませんが、最後は個人に帰ってくるビジネススキームなんです。ただ、法人だと健康保険組合が健康診断のデータやレセプトデータを持っているので、より多くのデータを取得しやすいというメリットがあります。

──企業経営の観点からヘルスケアに取り組むという視点は新しいものですね。

ひとつには、経済産業省が「健康経営」を推進しているという理由があります。僕らが法人向けにビジネスのかじを切った理由は、その流れに乗っていくべきだと思ったからです。なぜ、国が健康経営といっているのかというと、医療費の削減が目的なんですね。

でも、健康経営といっても企業は何をしたら良いかわからない。そこで僕らが支援ツールや、ノウハウを提供していく。それによって、個人も、企業も、国も、全員にメリットが生まれるんです。

ウェルネス経営に取り組む企業に対しては、チーフ・ウェルネス・オフィサー(CWO/最高健康責任者)を置いてもらい、健康を見る責務のある人を明確にしてもらっています。
 

健康情報のビッグデータは、世界をどう変えるのか
──必要以上に会社側に健康情報を知られることに対して、反発する人もいませんか。

プライバシーについては最大限ケアしています。統計情報をチェックするにも制限をつけるなど、個人の健康情報が会社側にはわからないような仕組みをつくっています。ただ、社員の健康にアラートが出たなら、会社側としてもケアできた方がいいのは間違いありません。会社と社員の間で、どこまで健康情報を公開するのか、話し合いが必要だと思っています。

ただ、将来的には健康も個人の評価指標のひとつにはいってくると思っています。プロスポーツ選手なら、体調管理は仕事のうちですよね。それはビジネスマンも一緒で、自分の体を健康にしておく責任がある。そこを会社としてマネジメントし、評価していこうという動きは、今後広まっていくと考えます。

──ヘルスケア分野がITと結びつくことで、これからの社会はどうかわっていくのでしょうか。

医師や栄養士などの専門家が、もっとその専門性に関する部分だけに集中できるようになるんじゃないでしょうか。今は、専門家が自分でやらなくてもよい単純作業をやる必要があります。そこを機械がサポートすることで、専門家はもっと人に寄り添った仕事ができるはずです。

もうひとつには、専門家が経験を積んで、熟練した専門家に成長するサイクルが短くなると思っています。機械が専門家をサポートして、必要な情報をレコメンドしてくれることで、学習するスピードが速くなり、専門性に関する差も少なくなっていくでしょう。

例えば、新人の医師でも、データベースの支援によって、正確な診断を下せるようになるでしょう。そうすると、専門家にとって、コミュニケーション能力であったりとか、人間との関わりあい方であったりというところが、差別化要因として重視される世界が来るのかなと思います。