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日々のトレーニングを残していきます。高速構造化思考の修得へ

#060 戦略的構造化スキル

A.T. カーニー Webサイトより

 

「戦略的構造化」力とは何か

筆者は現在、経営戦略コンサルタントとして、M&Aからオーガニックな成長まで、様々な企業戦略の立案・実行支援に携わっている。一見格好良く聞こえるかもしれないが、実際は、絶えず頭を高速回転させつつ、同時に脳みそに深く皺をよせて多面的にモノゴトを考え抜く、きわめてエネルギーのいる地道な仕事である。

この仕事の質を決める根本的な能力、即ち“私の仕事のコアエンジン”は、「モノゴト・課題を戦略的に構造化する力」だと考えている。とはいっても筆者は、大学時代は体育会系主将として運動に明け暮れる日々で、社会人になる際には典型的な右脳系・感情系のビジネスパーソンで全く優秀な部類ではなかった。その後10年間の商社マン時代およびMBA留学時代を通して基本的な計数的・論理的なビジネススキルを身につけたが、依然自分を支える本質的なスキルセットは“情熱”であり続けた。情熱は基盤として絶対的な必要条件であるが、企業や仕事の課題を最もインパクトのある打ち手で解決するには「課題の戦略的な構造化」こそが肝になる─そう確信したのは戦略コンサルタントになってからだ。その確信から筆者は「構造化を生業とする人」として、自身を“ストラクチャリスト”として商標登録し、一コンサルタントである上にさらに“戦略のプロ”としての意識を高め、日々質の高い仕事を自身に課している。

読者の皆さんに「戦略的構造化」力の養成を訴えたいのは、実はこの能力が、企業の課題解決だけでなく、社会・文化・個人に至るあらゆる課題・事象に適用できるからだ。皆さんが、自身を取り囲む課題を、少しずつでも意識的に「構造化する」ことを心がけることで、より確実に前進する行動に結びつき、日々の仕事・プライベートに好循環が起こり、生活を劇的に面白く変化させることができる。

では、「戦略的構造化」とは何か。筆者はこれを「ある事象や課題を『意味のある軸』で分けて平面的・立体的に捉え、課題の因果関係を探り、鍵となるドライバー(要因)やパラメータ(根本要素)をあぶり出して、優先順位を付けること」と定義している。「意味のある軸」と書いたとおり、構造化して抽出するのは、限られたリソースを投下して施策を打つことができ、実際に変革が起こるドライバーやパラメータでなくてはならない。つまり、目指すのは、単にフレームワークを当てはめたりMECEに分けたりすることではなく、実際にインパクトを起こすための「戦略的」な構造化である。

企業戦略コンサルティングの現場で求められる構造化は、様々に影響しあうパラメータを立体的に捉える高度な技術を要するが、まずはその基本を押さえよう。基本的な軸は、数式、規模、種類、要因、新旧、時間、プロセス、地域、方角などのように、定量と定性(=性質の軸)」か「時間と空間(=つながりの軸)」に大別される。

それでは、基本編として、この中の2つの軸を例に取り、構造化の例を見ていこう。ここではまず、表面的に事実を押さえることの意味を掴んでいただきたい。

因果関係を探り、鍵となるドライバーやパラメータをあぶり出し、立体的に捉える。
モノゴトを戦略的に構造化するスキルは、戦略思考や仮説思考の根幹をなすスキルである。
それと同時に、仕事のストレスから自らを解き放ち、
ビジネスリーダーに欠かせない人間的魅力を身につけるパスポートでもある。
“ストラクチャリストR”が、戦略的構造化」のアプローチと魅力を存分に語る。
基本編① 数式で考える

Aさんは、残業の多い若手ビジネスパーソン。毎朝、疲れが残った体で7~8時発の電車に乗り、ぎゅうぎゅう詰めのラッシュの中、40分の道のりを通勤している。電車を降りて一言、「マジで何とかならないかな?このラッシュ」。

さあ、そこでこの課題「通勤ラッシュの解決策は何か?」を構造化してみよう。通勤ラッシュ(朝7~8時と仮定)は、次の不等式で定義して構造化できる。

【1両当たり輸送客数×1本当たり車両数×(7~8時)1時間当たり本数(頻度)×路線数】<【7~8時の乗客数】

この「<」を「=」もしくは「>」に変える施策が戦略的な打ち手になるが、ざっと思いつく打ち手の候補を入れて構造化する。このように構造化することで、モレなくダブりなく要素が抽出でき、時間軸で打ち手候補を整理できる。さらに、モレている打ち手候補を盛り込み、数値的な感覚とプラス面・マイナス面を考慮して実現可能性を仮説的に評価できれば、打ち手の優先順位を付けることができ、それなりの議論に耐えうる資料ができあがるだろう。
基本編② プロセスで考える

Bさんは、通販会社のイーコマース事業立ち上げのためにIT企業から転職してきた。ただ、社内会議では、通販事業しか知らない社員の人たちと言語・常識がかみ合わないため、各部門の協力を得られず苦労している。たしかに、自分も通販事業をよく知らない。であれば一度、みんなに教えてもらって通販事業の全体像を理解したい。そして、通販とイーコマースがどう違うのか、その違いがどのような収益構造の差となるのか(=イーコマースがいかに収益性がよいか)をみんなに理解してもらいたい。「でも、どうしたらいい?」。

課題は「通販事業とイーコマースの差を見るために、通販事業の全体像をどう整理すべきか?」だ。これは、単純な課題整理だ。収益構造、特にコスト構造を見るときは、事業の流れと活動をプロセスに沿って整理してみると、見える世界が広がる。考え方を示すために内容は一部省略・割愛したが、大プロセスと小プロセスに分けるとさらに効果的であることがわかる。これを完成させ、それをベースに各業務における工数・コストの差異などを議論すると有意義だろう。
「戦略的構造化」のプロセス

解決やアクションに結びつく「戦略的構造化」を行うには、基本編で見たような考え方を、さらに高度化させていくことになるが、そのプロセスは、インプット、ストラクチャリング、アウトプットという3つのステップを踏む。

この中で最も重要なのは、最初のステップのインプットの質、特に「聴く」質を上げることだ。「聴く」力を上げるには、高い質問力もさることながら、まずは、話されている内容を頭の中で初期構造化するための「聴き方」が最も重要になる。

参考までに、私が実践している聴き方を紹介しよう。あくまでもイメージだが、「構造化」モードにスイッチを切り替えたら、左脳に論理的思考、右脳に抽象的思考の「聴く脳」が瞬間起動する。一般的に、求められない限り論理的な話し方をする人は多くないので、大抵は右耳から聴き、左脳に話をぶつける。左脳では、聴いた内容を数式化したり、プロセスで考えたり、ドライバー(要因)で整理したりして、効果的な整理・解決軸を探り出すためのテストを高速で繰り返し行う。同時に右脳では、左脳で暫定的に選んだ軸候補に対して、その構成要素の定性事象(例:現象・特徴・理由・解決仮説案など)をマッチングさせるよう抽出していき、その組み合わせの中で、左右の脳で共鳴する軸が見つかれば(たとえば、Y=ax+by+cz+…という数式で分ける軸を左脳で選び、右脳でa、b、cの具体的内容が明確に当てはめられていく状態)、それをベースに初期的な構造化イメージをどんどん深掘りしていく。

もちろん、これは筆者の“頭の中のイメージ”で、科学的な裏づけは一切確認していない。大事なのは、「こうすれば自分の頭が速く回転し、かつ、深く思考できる」という自分なりの方法論を持っておくことだろう。

ぜひとも、構造化の道具立てとして、自分だけの「効果的な聴き方」を見つけてほしい。
おわりに

日々、日本の企業買収や企業戦略に携わっていると、将来的な少子高齢化の閉塞感、終わりのないコスト削減要求、過度なコンプライアンスへの業務流出、継続する投資抑制、グローバル化が難しい言語力など、課題山積にもかかわらず、それを克服するどころか逆にそういったトレンドに押されて、日本企業・ビジネスパーソンの活気がさらに下降しているように感じる。

ビジネスパーソンが、自分の仕事に使命と誇りと達成感を持つことが経済活性化への全ての第一歩。私は、1人1人のビジネスパーソンの「戦略的構造化」力が少しずつアップすれば、日本にある1つ1つの仕事の質とスピードが高まり、仕事に目的を持った活き活きとしたビジネスパーソンが急増し、社会全体でその歯車がかみ合い始めると日本経済の生態系は飛躍的に活性化し、明るく前進力のあるものになると思っている。

構造化力向上の第一歩は、自分が疑問を持たずにやっている日常の些細な仕事でよい。たとえば上司への顧客訪問事前資料、部長は何を知っておけば顧客との面談でうまくいくだろうか?」、また一方、「こうすればいいのに」などと思うものは「どうして自分はそう思うんだろう?」と考えてみる。「なぜだろう、なんなんだろう」ということの軸を構造化して押さえ、その上に「こうだからではないか(仮説)」を考える、というエクササイズをシツコクシツコクやってみることをおすすめする。

日本の需要・技術的優位性に依拠していた強みが低くなり、コスト競争力のない産業において日本の空洞化は不可避なのかもしれないが、ならば、世界で稼いで日本に儲けを還流する仕組み作りを考えなければならない。即ち、日本のビジネスパーソンの先を見通し行動する“頭脳”までが空洞化してしまうと、この国に明るい未来は絶対に来ない。ぜひ、皆さんのような高い志を持ったビジネスパーソンの方々が、戦略的構造化」力(=頭脳)を鍛え、明日から日本中に、感動的なお仕事と素敵な職場を1つでも多く増やしていっていただきたい。